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2020.10.07

[企業審査人シリーズvol.224]

 経理課の木下と新人営業パーソンの谷田はまだ昭和の雰囲気漂う喫茶店にいた。谷田の仕事がまだ残っていそうだったのでアルコールは遠慮した2人だが、食後のデザートは注文した。木下はアルコールの代わりに、という感じで注文したが、谷田は単に食欲が旺盛なだけである。木下はガトーショコラ、谷田はプリンパフェを注文したのだが、ビーフカリーに続いてエビピラフも平らげた谷田の食欲は要注意レベルである。あまり他人のことに口を挟まない木下も、谷田の注文を聞いた直後はさすがに「ホントに食べられますか?」と念押ししたが、谷田はまだ余裕、という顔をした。
「ところで谷田さん、営業も徐々に再開してきていると思いますけど、お得意先の様子はどうでしょうか?」
「どのお得意先に行っても、『他の会社はどう?』とよく聞かれます。どこも通常営業に戻りつつあるように見えますが、警戒を続けている感じです。建物内に入る前の消毒はもちろんですが、検温システムを導入するところも増えていますし。これになかなか慣れなくて、鳴ってしまったらどうしよう、と緊張してしまいます…」
「確かにそうですね。私は平熱が少し高いみたいで、37度を少し超えちゃうことがよくあります」
「僕は平熱は高くありませんけど、暑い日に外から入ると鳴っちゃうんじゃないかといつも心配します。まあ、お得意先にうつしてしまったら大変ですから当然のことなのですが、やはり接触の機会を減らした方が良いですよね。会議もリモートに切り替えていく動きが目立ってきましたし、営業もネット対応が増えました」
「そういえば、私が先日受講した外部の財務会計セミナーもリモートでしたよ。質問をしたときに講師が言っていましたが、会場でやるセミナーより受講者からの質問が多いそうです。広い会場で手を上げるよりもハードルが低いと感じる人が多いみたいですね」
「なるほど、確かに教室で挙手するよりも周りの目を気にしなくて良さそうですね。私は小さい画面での営業に最初は戸惑いました。それに、リアルな訪問だと移動時間を使ってシミュレーションや心の準備をしていましたが、リモートだといきなりつながる感じになるので、最初はちょっと苦労しました」
「でも、暑いときには移動するのが大変ですから、楽な部分もあったのでは?」
「もちろんです。営業効率は格段に良いですね。慣れてくると資料の共有も手早くできますし、大口のお得意先との商談で困ったときは、その場で上司の八木田さんにフォローで入ってもらうこともできます。先日そんなことがあって、以前八木田さんが担当していた会社だったので、再会でトークが弾みました。リアルな訪問だとわざわざ同行できないですが、そういうメリットもありますね」
「いいですね。この機会に是非、八木田さんの営業テクニックを盗んでください」
「ホントに勉強させてもらうことばかりです。私は営業用のパンフレットに頼ってしまうんですけど、八木田さんは実際の写真や動画データを見せながら、相手の興味を引くような提案をしています。新規先でのプレゼンでは背景や光の加減も意識するように、といった細かいアドバイスもくれます」
「さすが、八木田さんは普段から演出家のようだと思っていましたが、実際そうなのですね」
 木下は八木田のやや演出過剰気味な服装や立ち居振る舞いを思い出して、クスッと笑った。
「そうなんです。でも、一番役に立っているのは商談の導入ですね。さきほどお話ししたように、リモートはいきなり相手の前に現れる感じになるので、リアルな面談よりも導入部分に気を遣います。八木田さんは景気動向のデータを常にチェックしていて、そこから具体的な数字を示して話をしています」
「なるほど、私も会計事務所時代に、クライアントの社長と話すときに話題にしていました。社長の現状や今後の見通しについてどういう認識を持っているかが確認できますし、認識合わせもできますからね」
あっと言う間にプリンパフェをペロリと平らげた谷田が、ここで「あっ」と何かを思い出したような顔をした。
「そういえば、いまさらこういうことを聞くのもなんですが、景気動向調査でよく出てくるDIって、どういうものなのでしょうか?いつもグラフを見て感覚的な善し悪しだけを見ていましたが・・・」
「英語の略称は八木田さんが大好きな分野だと思いますが、八木田さんに聞くと話が長くなりそうですね。DIは、ディフュージョン・インデックスの略です。良い・悪いといったアンケートの回答を集約して比率に置き換える手法です。50を継続的に超えていれば景気は上向き、下回っていれば景気は下降気味、といった見方をします」と答えた木下は、まだガトーショコラが50%ほど残っている。
「なるほど。なんとなくそういう見方をしていたのは間違いでなかったわけですね」
「景気DIは全国のものだけでなくて、業種別や地域別、企業規模別といった統計が出ていますので、目的に応じてトレンドを確認することができます。過去からの推移も視覚的に把握できますし、3カ⽉後や6カ⽉後に景気が良くなるかどうか、といったものもありますから、便利ですよね」
「そうでしたか。ちなみに木下さんは、前職でどのような使い方をしていたんですか?」
「クライアント先の業種別の景況感は最低限チェックしていましたね。あと、財務統計と併せて経営指標のDIもチェックしていました。もちろん隅々まで見ていた、というわけではありませんでしたが・・・」
「その経営指標DIっていうのは何ですか?」
「たとえば、生産・出荷量の増加した・減少したといった回答をまとめたものです。たとえば社長が設備投資をして拡大攻勢をかけるべきか迷っているようなときに、設備投資意欲DIや金融機関の融資姿勢DIを確認していました。営業の谷田さんなら、仕入・販売単価や在庫動向のDIは見ておくとよいかもしれませんね」
「ありがとうございます。でも、それらはどこかで簡単に見られるのですか?」
「各種のDIがネット上で見られますが、私は最近調査会社のものを使っています。審査課とつきあいがある調査会社の横田さんという方に教えてもらったものですが、最近は短い動画にしてYouTubeにアップしたり、更新情報をツイッターで告知したりしているようですよ」
「それは僕らの世代でもとっつきやすそうですね!さっそくフォローしてみます」
「さて、そろそろお開きにしましょうか…谷田さんが気付くまで言おうか迷っていましたが、ほっぺたに生クリームがついたままですよ。ひょっとしてそれも八木田さんに習った演出ですか?」
「えっ・・・いやいや、いくら八木田さんが奇抜でもそこまでは・・・」
恥ずかしそうにおしぼりで拭った谷田の頬が赤くなり、それを見た木下が愉快そうに笑って、その日のふたりの長い談義が終了したのだった。

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