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  • 高まる賃上げ気運の一方で「賃上げしないリスク」も~景気のミカタ~

2023.03.17

賃上げに向けた動き加速で経済の好循環が実現する!?

今回の景気のミカタは、経済の好循環に向けて賃金を引き上げる動きが近年になく高まっているなかで見落としはないのか、さらに「賃上げしないリスク」に直面する企業に焦点をあてています。

高まる賃上げ機運、賃上げを実施する企業は2007年以降で最高水準

図表1
今年の春闘は3月15日に集中回答日を迎えました。物価上昇率は2022年12月に4%を超え、第二次オイルショック以来となる上げ幅を記録しています。こうしたなか、大手企業では労働組合の要求に満額回答する動きが報じられるなど、近年にない賃上げ機運の高まりがみられます。

帝国データバンクが1月に実施した調査[1]によると、2023年度に正社員の賃上げが「ある」と見込む企業は56.8%と2年連続で増加、2018年度見込み(2018年1月調査)と並び過去最高水準となりました。賃上げの具体的内容をみると、「ベースアップ」が49.1%(前年比2.7ポイント増)、「賞与(一時金)」が27.1%(同0.6ポイント減)となっています(図表1)。「ベースアップ」は過去最高となった前年の46.4%を上回り、2年連続で調査を開始した2006年(2007年度見込み)以降での最高を更新しました。

とりわけ「大企業」では、企業の54.3%が賃上げを実施すると見込んでおり、過去最高を記録しています。また、「中小企業」で賃上げを見込む企業は56.8%にのぼり「大企業」を上回るほどの高さです(2018年度に次いで過去2番目)。特に、従業員数が「6~20人」「21~50人」「51~100人」の企業で6割を超えていました。

企業からも、「臨時手当も考えたが、人員確保には目に見えるベースアップが重要」(土工・コンクリート工事)や「基本的な収益構造を確実化させ、ベースアップ達成を目指す」(技術提供業)、「物価高により給料もできる範囲でアップしたい」(野菜漬物製造)といった意見が寄せられており、賃金を可能な限り上げていきたいという考えが浮かび上がっています。

従業員をつなぎ止める「賃上げしないリスク」も経営課題として浮上

図表2
政府は、賃上げと労働移動の円滑化、人への投資という3つの課題への一体的改革を進めていますが、実際に多くの企業が賃上げを実施する意向です。こうした動きから、賃金上昇→消費の拡大→企業の売り上げ・利益の増加→賃金の上昇という「経済の好循環」につながると考えて良いでしょうか。

前述の調査をより詳しく見ていくと、必ずしもそうとは言い切れない現実も読み取れてきます。
賃上げの実施は従業員数が6~100人規模の企業で高くなっていましたが、その理由として「労働力の定着・確保」が切実な問題として浮かび上がっています。新型コロナ禍からの経済再開が進むなかで、従業員を自社につなぎとめることができずに経営破綻した倒産が足下で増加傾向に転じているのです。2022年に判明した人手不足倒産140件のうち、従業員や経営幹部などの退職・離職が直接・間接的に起因した「従業員退職型」の人手不足倒産は、少なくとも57件判明しています(図表2)。こうした状況のなかで、従業員数が6人~100人規模の企業で「賃上げしないリスク」に直面していることも現実の経営課題として認識する必要があるのです。

一方で、従業員数5人以下の企業では、賃上げを見込む企業が3割台にとどまるなど、長引く新型コロナへの対応で賃上げを行う余力が失われてきていることもうかがえます。

原材料価格の高止まりや電気料金などエネルギー価格の増加などによる影響が多くの企業で続いているほか、価格転嫁率が39.9%にとどまるなど、コスト負担の多くを企業が負担しているのが現状です。政府は価格交渉促進を図るなど、政労使をあげて賃上げに向けた環境を整え、企業をバックアップする姿勢を打ち出しています。

2023年度は賃上げの動きに上向きの傾向がみられますが、賃上げを行う理由では、依然として「労働力の定着・確保」が最も多く、「従業員の生活を支えるため」に行うという企業も7割にのぼります。こうしたなかでも、企業からは「大幅な賃金改定は難しく、わずかではあるが従業員の生活補填をしたい。賃金改定による販売価格の見直しは必須であることから取引先との交渉が課題」(料理品小売)や「自己研鑽費用に充ててもらうため」(貸事務所)など、リスキリングを含め社員のスキルアップによる生産性向上に期待する意見も聞かれます。

生産性向上を図るなど企業による自助努力とともに、生活者の実質購買力を高めるため、政府には適正な価格転嫁を行える環境を整える政策を実行していくことも、経済の好循環を達成するために必要となるでしょう。


[1] 帝国データバンク「2023年度の賃金動向に関する企業の意識調査」(2023年2月15日発表)

(情報統括部 情報統括課 主席研究員 窪田剛士)

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