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  • 不動産登記の見方 ~時点にご用心~

2013.10.18

[企業審査人シリーズvol.4] 

「昨日は歌いすぎたな、喉が痛い・・・」
 木曜日の朝、青山は調査会社の報告書を読んでいた。新規の与信申請に添付したものだ。年商3億円の東京・下町の建設会社、昭和47年設立。
 「ん?」青山が首を捻ったのは不動産登記写の頁を見たときだ。
 本社の土地・建物に5,000万円の抵当権が設定されているが、報告書の銀行取引の頁には無借金とある。
 「中谷さん、これ無借金って調査疎漏じゃないですか?」斜め前に座る課長の中谷に、かすれた声を掛けた。中谷も昨晩の「天城越え」のせいか、顔色が悪い。中谷はパラパラと報告書をめくり、

 「いやいや、これは無借金よ。」と少しだけ生気を取り戻した目を青山に向けた。
 「抵当権って、借金を返せば消されるんじゃないですか?」意外そうに聞く青山に、中谷が解説する。
 「返済が済んでも抵当権が残っていることはときどきあるわ。当事者が抹消手続きを怠ったケースね。決算書を見るとこの会社はよほど昔の蓄えがあるのか、現預金が年商の半分もある。運転資金分析を見ても、借入をせずに回せるレベル。青山が言うように、返済で抵当権は効力を失ってるから、ホントは第三者に対抗する必要が生じた場合の面倒を避ける意味で抹消手続きをしておくべきなんだけど。こういうところにその会社の管理の甘さが出るのよ。」名前はすでに呼び捨てだ。
 「そうなんですか。平成元年の抵当権だからとっくに返してますよね。」そう言う青山に、
 「抵当権だから取得時の時価に近い借入なんだろうけど、今はその半分の価値もないんじゃないかしら。」
 眠そうだった中谷はすっかり生き返っている。夜の天城越えでは声がひっくり返ってたけど、審査の仕事になると冴えている。ホントに審査が好きなんだなあ、この人は。青山はそう思った。

登記は現状の事実とは限らない

 今回は不動産登記の抹消手続きが終わっていないケースですが、登記についてはこうした本来必要な更新がなされていないケースが、とくに中小企業の場合に多々あります。商業登記でもそういうことはよくあり、役員の任期2年を過ぎても重任登記をせず、登記上役員不在の時期が生じている商業登記もあります。あくまで登記上のことですから経済の実態にはさほど影響はありませんが、その会社の管理体制やコンプライアンス意識を見る上で材料となります。

不動産登記からわかること

 民間企業間の取引で不動産担保を差し入れるようなことは多くなく、審査担当者が担保に入れる物件を探すために不動産登記を見ることは少ないと言えます。
 しかし、不動産登記に掲載された情報は、その会社の信用状態を見極めるのに役立ちます。業績が冴えない会社に銀行が新たに担保を設定している場合は、銀行が保全に動き始めているケースがありますし、当初の担保がいわゆる担保割れを起こして追加担保を求められているケースもあります。銀行もかつてほど不動産担保に頼らなくなっていると言われますが、あえて担保を追加でとるようなケースはなおさら保全の意味合いが強いわけです。かつて上場ゼネコンの信用不安が盛んに出ていた時代は、メガバンクの担保設定の動きに注目が集まっていたものです。
 根抵当権や抵当権の設定金額は、設定時期を見ることが重要です。とくにバブル期の設定額は相当割り引いて見る必要がありますが、とくに抵当権の場合は一度きりの不動産取得のために設定されていることが多く、これが社有不動産であれば「高値づかみ」した不動産の取得時価を推定するのに役立ちます。零細企業は決算で時価評価を用いるケースが少ないため、含み損の類推にも役立ちます。
 なお、TDBの調査報告書に添付される不動産登記の取得には金額による閲覧上限があります。信用状態が気になる先については「指定事項」で上限を超える取得を指示するか、ご自身で追加取得して確認をしましょう。

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