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  • 財務諸表と添付パターン~報告書の読み解き方-27~

2015.01.23

[企業審査人シリーズvol.68]

調査会社の横田による新人審査人・青山向けの報告書レクチャーがサマリーまで進んで一段落した翌週の水曜日、夕日が差し込む応接室で青山は横田を待っていた。昼前に横田から電話があり、レクチャーの続きをしてもらうことになったのだ。約束の時間の1分前にドアをノックして入ってきた横田を気安く迎えた青山だったが、横田の後ろから一緒に若い女性が入ってきたのを見て、顔に動揺を浮かべた。
 「うちの財務諸表データの生産管理部門にいる小滝を連れてきました」と横田が紹介すると、「財務情報管理チームの小滝です。よろしくお願いします」と、小滝が挨拶した。
 「青山です。横田さんにお世話になっています。いやあ、びっくりしました。私はまた、横田さんがデートの相手でも連れてこられたのかと思いましたよ」と、青山が動揺から立ち直って軽口を叩くと、小滝は少し恥ずかしそうに手振りで否定した。
 「私がそんな人に見えますか。普段お客さんのところに行くことがあまりないから、何か機会があったら連れて行ってくれって、小滝の上司に頼まれていまして。うちの研修も兼ねたようで恐縮ですが、財務は詳しいので、どうぞご容赦ください」
 青山は笑顔で了解した。歳は青山と同じくらいだろう。大学で簿記1級をとり、財務の仕事をしたくて調査会社に入社したという。調査会社にはそんな人もいるんだなあ、と青山は珍しいものを見るように小滝を見た。
 「さて、今日は財務諸表から先の補足をさせていただくことになっていましたね。その前に、財務諸表が添付されるケースを説明しますが、調査報告の中で決算書を入手し、報告書に添付できるものは半分程度です。財務諸表丸々ではなく、貸借対照表だけとか、大科目の数値だけ入手した『要旨』というのを添付するものが2割くらいあります。残りは『推定資産・負債状況』という、私たちの推定バランスシートを添付しています」
 「決算書は半分程度ですか。もう少し少ないように思いましたが・・・」と青山が遠慮のない感じで聞いた。
 「年間で提供させていただく報告数をベースにするとそれくらいの数字になります。ただ、決算書の入手率というのは企業規模が大きいほど高くなり、小さいほど低くなる傾向があります。また業種によっても差があるので、お客さまが取得される相手先の業種や規模によって感覚が違ってくると思います」
 「要旨と推定というのがありましたけど、要旨というのは決算書のホンモノを写したもの、推定資産というのは調査員が作成したもの、という理解でよいですか?まあ、私たちはやっぱり決算書が付いているのが一番ですけど」
 「そういう理解で結構です。はい。決算書入手は心得ております。頑張ります」と横田が神妙な顔をして答えると、隣の小滝もペコリと頭を下げた。
 「でも推定資産って、調査員の方も作るのが大変そうですね」
 「ええ、推定バランスを作らないと評点ができないので作りますが、手間はかかります。新人の調査員なんかはこれに一番苦労しますね。お客さまには『参考にならん』とのお叱りをいただきますが、推定資産も自己資本比率だけは聞けているとか、不動産の簿価は聞けているとか、部分的に情報をつかめていて作成しているケースがあります。また古い会社の場合は過去に入手した決算書をベースにある程度妥当な推定ができるケースもあります」
 「なるほど。推定資産でも見ておいたほうがよさそうですね。そうそう、それで思い出したんですが、決算書をもらったときって、もらった原本をそのまま入力しているわけじゃないんですよね?たまたま取引先から決算書をもらえたときに、報告書に付いているものと見比べたら、微妙に違っていたので・・・」
 「ああ、それは小滝を連れてきた甲斐がありました。小滝さん、説明よろしく」と横田が小滝に促した。
 「はい。原本のまま入れているわけではありません。科目の集約をしています。財務諸表に出てくる科目は49万科目もあって、例えば牧場を経営する会社にとっては『牛』が資産勘定に出てきますが、勘定科目では肥育牛とか牧場子牛とか乳牛育成牛勘定とか、いろんな表現をされます。これらをそのまま入力すると、比較や分析ができなくなってしまいますので、私たちがこうした原本の科目を所定の719科目に置き換えて入力しているんです」
 そう涼しく言った小滝の顔を見て、青山の頭には、広大な牧場で小滝が勇ましく馬に乗り、49万頭の牛を700の厩舎に収めていく様が浮かんだ。 

財務資料の添付パターンは3つ

 報告書に添付される財務資料は①財務諸表、②貸借対照表(損益計算書)の要旨、③推定資産・負債状況の3つのパターンがあり、そのいずれかが添付されます。調査員は調査において決算書の入手に努めますが、それができない場合に情報の入手度合いに応じて②、または③の対応になります。②の要旨には官報公告で入手したものも含みます。推定資産・負債状況については横田が触れたように、すべて調査員が推定して作成したものから、部分的に決算数値や比率がわかっていて、それを材料に作成したものまで、さまざまです。そうした作成過程は開示しませんが、土地や建物が計上されている場合に、付記に示した算出根拠が「簿価を計上」となっている場合は、決算書を部分的に参照できている可能性があります。簿価がわからない場合は、時価計算してその算出根拠を付記に示しています。
 また財務諸表の添付パターンにも2つあります。COSMOS1に収録可能な業種については、財務諸表分析表を添付した罫線枠の所定の財務諸表フォームで提供しますが、特殊法人など、財務諸表が特殊な業種についてはCOSMOS1に収録できないため、フリーフォーマットに原本をそのまま入力した形で提供し、分析表も添付されません。なお決算書は最大3期分を添付します。 

科目の集約

 決算書をデータベースに収録し、他社の決算書と比較・分析できるようにするには、「科目の集約」という作業が不可欠です。決算書を作るのは全国の公認会計士や税理士ですが、その様式こそ決まっているものの、中身の勘定科目は比較的自由に用いられており、同じものがさまざまな勘定科目として表現されます。
 TDBでは、長年の決算書入力業務で蓄積してきた49万科目を719科目に集約する「科目辞書」を持っており、これに基づいて入力作業を行っています。科目の集約も、業歴の長い調査会社のノウハウです。

企業信用調査

取引先の“今”と“これから”を、しっかり見極める企業信用調査
https://www.tdb.co.jp/lineup/research/index.html

あらたに取引を始めるとき、既存取引を拡大するとき、同業他社を分析するとき、必要なのは正確な情報です。帝国データバンクはインターネットなどからは得られない、現地調査による情報と長年のノウハウを基にした情報分析力で、精度と鮮度の高い信用調査報告書を提供します。

ビジネスシーンにあわせた信用調査報告書の活用方法や調査報告書の読み方資料などをご覧いただけます。

調査報告書の読み解き方コラムシリーズ

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