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2019.09.12

[企業審査人シリーズvol.193]

日も傾き始めた夕方のウッドワーク社。就業時間が終わりに近づき、この日の仕事に決着をつけようと、青山は自席にうずだかく積まれた審査書類と奮闘していた。
「これは、長いなぁ・・・」と、ある会社の決算書を手にひとり言を漏らしているところへ、一足先に月末の締めの作業を片付けた経理課の木下がやってきた。
「そうですよ、青山さん。例の彼女と知り合ってからずいぶん経つのに、進展がないらしいじゃないですか」
普段あまりこの手のツッコミをする木下ではないが、先日一緒にカレーを食べに行ったときに、青山が七瀬との一件をどことなくうれしそうに話したのを聞いて、それ以来ときどきこうしたツッコミをしている。
「き、木下さん!違いますよ。彼女とは、そんなんじゃなくて、あくまでビジネス上の知人というか・・・」
こういう昭和のファミリードラマ風の青山の反応が、木下ですらツッコミを入れたくなる一因である。
「別に誰とも言っていないのに、なんですか、その動揺ぶりは・・・」
「ですから僕が悩んでいたのは、仕事のことですって。ほら、この会社、決算期を3月から9月に変更していて、結果として18ヶ月決算になっているんです。こういうのって認められているんでしたっけ?」
話をそらしたいのか助けを求めているのか、青山は木下に興味がありそうな話題に切り替えている。
「じゃあ、さらなる追求は飲みの席にとっておくとして・・・事業年度についてですね。原則としては1年とされますが、事業年度の末日を変更する場合は、最長18ヶ月までの延長が認められていますよ」
「そうなんですか。そもそも決算期の変更って、どんな理由で行われるんですか?」
「それはまさにケースバイケースです。グループ企業で連結決算をスムーズに行うために、子会社の決算期を親会社に合わせて変更する、というパターンはよく目にします」
「その方が頂点企業によるマネジメントの効率がいいってことですか」
「そういえば、私の前職のクライアントが行った決算期変更は、新事業に進出したことにより繁忙期が決算集計タイミングと重なってしまって大変だから、というのが理由でした」
「なるほど・・・そういった実務的な理由もあるですね」
「その時は一旦、事業年度を6ヶ月でまとめましたよ。ただ、こちらの会計事務所の繁忙期と重なってしまって、こちらが大忙しでした。税務署にも『異動届出書』を提出する必要がありますからね」
「そんなルールがあるんですね。ちなみに、その届出書はほかにどういう場面で求められるんですか?」
「商号変更に、事業所移転に伴う納税地の変更、代表者の交代や会社の合併、分割などなど・・・結構、実務上の手続きって多いんですよ」
「会計事務所の仕事って、決算だけじゃないんですね」
「当然です!時には社長の長い長い相談話に耳を傾け、解決策を一緒に考えることもありますから。そうそう、女性からの相談は自分の意見を言わず、ただただ聴いて同意してあげるのが良いらしいですよ、青山さん」
「話を戻さないでくださいよ。木下さんだけはそういうことを言わない人だと思っていたのに」
「青山さんの同期の阿佐見君がからかっているのを見ると、つい面白そうで」
「そういうのは阿佐見だけで十分です!カンベンしてください・・・」
「そうそう、審査では変則決算はいろいろと面倒なんですよ」と、青山が決算書を見ながら話を元に戻した。
「その気持ちは分かります。損益は単純に変則期を1年換算したものと、通常の1年決算の過去期を比較しなきゃいけませんからね」
「年換算する考え方自体は一般的なんですけど、ちょっとしたプロの知見が求められますよね」
「なかなか言うじゃないですか。青山プロの知見を伺っておきましょうか」
「1年未満の場合は、集計した変則決算期間の中に、その会社の売上のピーク時期といった繁忙期が含まれていないかを確認しますよね。年換算のベースが変わってきますから。もっとも、変則期が並んでいて合算すると1年になる場合は問題ないんですけど」
「さすが青山さん、基本的なポイントはおさえていますね。さきほど話した前職の決算期変更をしたクライアントも、社長さんに頼まれて主力銀行の担当者に月次推移のPLを提供した記憶があります」
「審査で月次のPLまで入手できることはちょっとレアですけど、きっちり過去の推移を見直したいですね。その点、BSは時点情報なので変則期を気にしなくていいですが」
「今の物言い、プロっぽくて雰囲気が出ていましたよ。その勢いで彼女をデートに誘いましょう!」
今日のツッコミがいつになく執拗なのは、彼が最近見た恋愛映画の影響があるのかもしれない。
「だから、一応プロですって。そもそも木下さんも独身でしょっ!人のこと言っている場合じゃないですよ!」
「退嬰的ですねぇ、青山さん。今は人の生き方が多様化している時代ですよ?それに、私は既婚ですよ」
「えぇー!聞いていませんよ、そんな話は!お相手は誰ですか?」
「学生時代からお付き合いをしていて、心に決めた『簿記 会計』さんです」
「・・・」
さきほどまで木下の執拗なツッコミに少し辟易していた青山だが、今日の木下はどこかおかしいのではないか?何かあったのではないか?と逆に心配になってきた。そこで定時の鐘が鳴って我に返った青山は、仕事が終わらなかったことと、木下のおかしなハイテンションに、二重の深いため息をついたのだった。

決算期の延長

木下が説明した決算期の延長について、会社法においては会社計算規則の第59条2項に以下のように定められています。

「各事業年度に係る計算書類及びその附属明細書の作成に係る期間は、当該事業年度の前事業年度の末日の翌日(当該事業年度の前事業年度がない場合にあっては、成立の日)から当該事業年度の末日までの期間とする。この場合において、当該期間は、一年(事業年度の末日を変更する場合における変更後の最初の事業年度については、一年六箇月)を超えることができない。」

したがって、決算期間は原則1年ですが、3月決算を9月決算に変更したケースなどにおいては、18ヶ月まで延長されることがあります。なお、税務上は1年内での申告が求められているなど、会社法上との差違があるため注意が必要です。

変則決算に注意

 事業年度の変更などに伴い、決算期が1年以下、または1年以上の変則期で決算が組まれるケースも想定されます。なお、TDBが提供する信用調査報告書の業績ページや決算書において変則期が含まれる場合、決算日付欄に「◆」を付していますので、見かける機会がございましたら注目してみてください。

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