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  • キャッシュレス化の波に押される新一万円札の行方~景気のミカタ~

2021.09.17

今月から印刷が始まった渋沢栄一翁の一万円札ですが・・・

今回の景気のミカタは、近年の各国中央銀行における高額紙幣に対する動きなどを通して、3年後に発行が開始される新一万円札の行方について焦点をあてています。

消費者の「現金決済」離れ、2020年に一気に加速

図表1:紙幣の発行高
2021年のNHK大河ドラマ「青天を衝(つ)け」が好調のようです。本作では「近代日本の資本主義の父」とも呼ばれ、幕末から明治にかけて多数の企業や経済団体の設立・経営に携わった渋沢栄一翁の生涯を描いています。

同氏が一般に広く知られるようになったのは、2019年に財務省が一万円札の肖像画を聖徳太子、福沢諭吉に次いで約40年ぶりに変更すると発表したこともあるでしょう(発行開始は2024年度上期を目途としています)。そして偽造防止などを目的とした最先端の技術が導入された新一万円札は、9月1日から印刷が開始されました。

日本は諸外国と比べて「現金決済」が多いと言われます。事実、日本の現金流通高は一貫して増加基調を示しています。なかでも一万円札は存在感が大きく、現金流通高の約9割を占めているのです。

紙幣の種類別に発行高の推移をみると、一万円札、五千円札、千円札[1]ともに増加していますが、特に最高額紙幣である一万円札の増加ペースが顕著に高くなっています(図表1)。最新の2021年8月での一万円札発行高は約109兆円で、2000年1月時点の2.2倍に増加しています。
図表2:日常的な支払い(買い物代金等)の主な決済手段
一方、日本で遅れていたキャッシュレス化が進められてきたなかで、新型コロナウイルスの感染拡大などによる影響もあり、2020年は現金の利用が大きく減少しました。図表2は家計の日常的な支払い(買い物代金等)の主な決済手段を示しています[2]。「二人以上世帯」では、「1,000円以下」の買い物代金の決済において、現金で行う人は2019年の84.0%から70.8%へと13.2ポイント低下しています。逆に、デビットカードを含む「電子マネー」は18.5%から29.6%、「クレジットカード」は9.1%から14.1%に上昇しています。さらに、5万円超の買い物においても「現金」は38.4%から26.1%へと12.3ポイント低下していました。

相次ぐ高額紙幣の廃止、渋沢栄一翁の新一万円札はどのような役割を果たすのだろうか

こうしたなかで、主要中央銀行において高額紙幣の廃止が相次いでいます。欧州では、2018年末に欧州中央銀行(ECB)が500ユーロ紙幣の発行を停止しました。このような動きは、日本銀行内でも検討が進められているのです。

高額紙幣廃止を理論・実証両面で支えているのが、ケネス・ロゴフ著『現金の呪い』です[3]。本書において、著者は現金の高額紙幣が違法取引や脱税などを助長するとして、徐々に現金を廃止していくことを主張しています。

ただし、本書では、段階的に高額紙幣を廃止していくために、1.最終的な目的は追跡不能な匿名取引の実行を困難にすること、2.移行には10~15年以上の時間をかけること、3.銀行口座を持たない貧困層にはデビットカードの提供など救済策を講じること、を目的とすべきことが述べられています。

また、高額紙幣をなくすことで、税の公平性・効率性を向上させるとともに、マイナス金利政策の効果を高めることもできることになります。実際、ECBが500ユーロ紙幣の発行を停止すると決めたのは、高額紙幣がマネー・ローンダリング(資金洗浄)に悪用されていることへの懸念や、テロや犯罪の資金源を断つことが目的とされていました。また、高額紙幣廃止論を後押ししているのはフィンテック(金融とITの融合)の普及という外部要因もあります。

スウェーデンなど北欧諸国では、現金の利用が急速に減少しています。スウェーデンでは、カード読み取り機を小売店に無料で設置したことで、盗難防止や銀行振り込みの手間の軽減、取引の記録化による取引管理の簡便化などもあり、キャッシュレス化が急速に進んだと言われています。

一方、日本についてみると、現金流通高の対名目GDP比率は22.9%(2020年)となっていて、国際決済銀行(BIS)の決済・市場インフラ委員会(CPMI)加盟国・地域のなかで突出して高い割合です。

また、各国の中央銀行では「デジタル通貨」の検討・研究も盛んに進められています。バブル経済期には一万円札を超える高額紙幣を発行すべきという論調もみられましたが、現在では高額紙幣廃止論へと貨幣制度に対する考え方は大きく変化してきました。しかし、日本では現金使用を前提とした習慣や取引慣行も多く残っています。このような環境のなかで3年後に発行が開始される渋沢栄一翁の新一万円札は、どのような役割を果たす紙幣になるのでしょうか。


[1] このほかに、二千円札や五百円札などがあるが、ここでは発行高の多い3つの紙幣を対象としている。
[2] 日本銀行「家計の金融行動に関する世論調査」は、「二人以上世帯」と「単身世帯」の「1,000円以下」「1,000円超5,000円以下」「5,000円超10,000円以下」「10,000円超50,000円以下」「50,000円超」の計10分類のデータがある。図表2では「二人以上世帯」の「1,000円以下」と「50,000円超」の2つを掲載した。
[3] 原書:Kenneth S. Rogoff, "The Curse of Cash", Princeton University Press, 2016

執筆:情報統括部 産業情報分析課 窪田 剛士

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