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  • 財務分析比率の話 ~審査のモノサシ~

2015.06.19

[企業審査人シリーズvol.86] 

「青山、審査を任せてだいぶ経過したし、建設業者の粗利益率はどれくらいかわかるわよね」
 その日の昼休みが終わる頃、課長の中谷が分厚い本を開いたまま青山に声を掛けた。

 「えっ?建設業者といってもいろいろありますからね・・・」と、不意を突かれた様子の青山が口ごもった。

 「うちのお得意さんが一番多いのはどういうところだっけ?」
 「それはハウスメーカーですよね。わかりました・・・そうですね、だいたい20%くらいですか?」

 「なるほどね。じゃあ、売上高経常利益率はどれくらいかしら?」
 中谷は最初の質問の正解・不正解を言わないまま、次の質問を投げてきた。

 「えっと、営業利益率じゃなくて経常利益率ですね・・・5%くらいですか?」
 守勢に回った青山は少々自信なげに答えた。とはいえ、対・中谷では青山が守勢に回るのは常である。

 「そう。じゃあ、自己資本比率は平均的にどれくらいかしら」

 (そう?そろそろ答えを言ってくれてもいいじゃないか!)と思いながら、青山は中谷のペースに身を任せた。
 「自己資本比率は、健全値のめやすが30%くらいと聞いてるから・・・そこまで良くはないですよね・・・」

 「だから?どのくらい?」と聞く中谷がすでにいたずらっぽい目をしている。

 「じゃあ、20%!」と少し投げやりに青山が答えたので、中谷が質問攻撃の終止符を打った。

 「まあ、だいたい正解、だわね」
 「だいたい正解って、何だかすっきりしませんね。中谷さんが見ているそれは何ですか?」

 「財務分析統計の本よ。業種別の財務比率がこれに載っているわ。調査会社の横田さんから買ったのよ」

 「へえ、中谷さんはそういうのって全部頭に入っているのかと思いました」と青山が小さく逆襲した。

 「だいたい入ってるわよ」と中谷は少しむっとした後、「ただこういう数値は経済情勢によっても変わってくるから、たまにこういうのを見て更新しておかないと、自分の思い込みになっちゃうものなのよ」と続けた。

 「さっきの正解を教えてくださいよ」

 「わかったわ。まず粗利益率だったわね。私たちが審査で良く見る建築工事業者は全企業の平均で18.5%ね。木造建築工事業者は21.6%だから、だいたい20%前後と考えれば正解よ」

 「ほんとはもう少し低いのかな・・・とも思ったんですけどね」

 「そうね。ゼネコンが分類されている一般土木建築工事業だと13%だから、もっと低いわね。このあたりは自社施工での付加価値があるほうが利益率は高くなると考えられるわね」

 「経常利益率は合っていましたか?5%くらいと言いましたけど」

 「売上高経常利益率はもっと低いわ。建築工事で0.99%、木造建築工事で0.75%。ただ、黒字企業に限定しても建築工事で2.88%、木造建築工事で3.06%だから、5%もないわよ」

 「そうか。ちょっとずれていましたね・・・自己資本比率はどうですか?20%くらいですか?」

 「建築工事業で14%、木造建築工事で0.04%。まあ黒字企業の平均では建築工事が33%、木造建築工事で26%だから、債務超過や赤字の会社が相当あるということね」

 「ところで、なぜそんなことを聞いたんですか?」と聞く青山に、中谷が思い出したように眉をしかめた。

 「青山が、収益性に優れているとコメントした会社の粗利益率が8%だから、心配になって聞いてみたのよ」

 「えっ?!・・・それは僕のモノサシが悪かったんじゃなくて、目が悪かったのかも・・・」と青山は小さくなった。

審査のモノサシ

 企業の良否を判断するときには、さまざまな基準に照らしてその良否を判定することになります。そういう意味で、審査人はさまざまな基準=モノサシを頭の中に入れておかねばなりません。
 今回の中谷と青山のやりとりは、財務数値に関するモノサシの話だったわけですが、こうしたモノサシを頭にいれておくことは、いい会社と悪い会社を見分ける判断力の基礎になります。
 TDBの調査員も、こうしたモノサシを多く持っています。調査員は調査先で決算書を見させていただいたとき、平均的な利益率が頭に入っていればこそ、その良否を判断し、それを相手に伝えることもできます。
経験を積むうちに、「この業種ならこれくらいの年商があれば大手だ」となり、ベテランになると自身の経験も加味して「この業種で従業員数がこれくらいなら年商はこれくらいだろう」、さらには「この事務所でこの年商はおかしい」といった判断もできるようになります。

 こうしたモノサシに基づく判断と分析が、調査の質につながります。テレビで時折、「この人は年商1億円の社長です」といった紹介テロップが流れ、歓声の効果音が入ることがありますが、これに違和感を覚えたことがある方もいるでしょう。物事の「良否」や「程度」を見極めるためには、多くのモノサシを持っておくことが大切なのです。

財務諸表分析統計

 エピソードに登場した財務分析の本は、TDBが発行している「全国企業財務諸表分析統計」という本です。
 TDBが調査活動において収集した13万社の財務諸表を基に、財務分析数値を算出したもので、最新版は昨年11月28日に発行した第57版です。TDB産業分類に基づいて業種別に分析数値を掲載しています。審査の際に、なじみのない業種の財務数値の良否を判定するときのモノサシとして活用できます。
 財務数値は業種や企業の規模によって大きな開きがあり、例えば売上高経常利益率では、日経新聞の財務欄に出てくる上場企業には数十%という会社も多く目にとまりますが、中小零細企業ではきわめて稀です。中小企業を審査対象とする場合は、こうした本を活用してモノサシを持っておくことが役立ちます。

 なおエピソードを補足しておくと、まずこの本での「黒字企業」は、「売上高経常利益率と自己資本比率のいずれも0より大きい会社」と定義しており、つまり「経常利益が赤字ではなく、債務超過でもない会社が「黒字企業」です。中谷が「全平均」と言っていたのは「全企業平均」で、こちらには赤字や債務超過の会社も含まれ、黒字企業の平均よりはかなり低い数値になっていることがあります。

 また、エピソード中に「建築工事」「木造建築工事」という区分が出てきましたが、当該業種の調査報告書をご利用いただいている方はご存知のように、「建築工事」(163-0)には主に木造建築工事を行う業者は含まず、木造建築工事を主とする業者は別途「木造建築工事」(164-0)に分類されます。また中谷が「ゼネコン」と称して見ていた数値は「一般土木建築工事業」(161-0)の数値で、こちらには土木・建築の両方を手掛ける総合的な工事業者が分類されます。
 

 
 

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