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  • 決算書の「間違い」の話 ~冬の夜の失敗~

2017.01.23

[企業審査人シリーズvol.129]

寒風吹きすさぶ夜、経理課の木下と審査課の青山は珍しくラーメン屋台にいた。ドラマに出てくるようなラーメン屋台自体がそうそうない中、青山が「社会人になったら一度はああいう飲み方をしたい」と言うので、木下が前職の職場の近くにあった屋台に連れて来たのだった。あらかじめ日を決めて決行したのだが、予報以上の寒さに、屋台には2人の他に客がいない。2人はコートを着たまま、背を丸めながらワンカップをすすっている。
「今日は審査で大きな見落としがあって、チームでカバーして貰って結果オーライだったんですけど、久しぶりに課長に怒られましたよ」と、青山は心も冷えているらしい。
「私も前職で大きな失敗をしたことがありますよ。まだまだ会計人として未熟だと痛感した覚えがあります」
そう青山を慰めた木下だが、その目は思い出を見晴らすような遠い目になっている。
「木下さんが大失敗なんて、あんまりイメージできないなぁ・・・」
「私も人間ですから、失敗はありますよ。白状すると、単純に資材仕入の二重計上に気がつかなかった、というものでした。意図せずに、仕入に関する二重の仕訳入力を見落としてしまったんです」
「申し訳ないですが、詳しく聞いちゃっても大丈夫ですか?」
 青山は自分の失敗も忘れて、木下の失敗談に食いついた。
「いいでしょう。実名は伏せますが・・・、背景としては、A社がB社にいったん資材を売って、B社がプレカットしたものを材料費込みで、私の顧問先であったC社が仕入れました」
「なるほど。C社は普通なら、B社からのプレカット込みの材料費分を経費に計上する・・・ということですよね」
「そうです。ところが、A社がB社に発行した領収書が、B社からC社への請求資料に紛れていました。変な話ですが、B社の担当が参考資料として、くっつけて渡してしまったのでしょうね。そして、結果的に重複する経費をC社の経理担当者がうっかり入力した、というわけです」
「それをチェックして、決算書や申告書を作るのが木下さんの仕事だったんですよね?」
「そうです。言い訳がましくなりますが、ちょうど期末の取引で、決算整理の段階でA社・B社ともに買掛金が残っていることに疑問を持たなかったんですね。原始資料のチェックも甘かったわけですが」
「でも、それで粗利が大きくぶれたりしませんでした?」と聞く青山は、なかなかの財務通になりつつある。
「もともと、規模の小さな工事業者で案件によって粗利が毎期大きくブレるのが常でしたからね。捉えられませんでしたねえ。その会社はもともと赤字・黒字を繰り返していましたし、その期は比較的大きな黒字となっていたので、経理担当も社長も想定内の状況だったんです」
「実際は、もっと利益が出ていた・・・ということですね。結局そのあと、どうしたんですか?」
「お粗末な話ですが、気が付いたのも翌期の期中を過ぎた後だったので、社長や税理士と協議して、過年度損益修正にて対応しました。今でも思い出すと、情けない気持ちになります」
「なるほど・・・失敗は失敗ですけど、そういう会計処理のミスを外部の人間が気付くのは、ほぼムリですよね」
「正直、当事者ですら見落としてしまうこともあることですからね。あえて言うなら、決算書は人が作るものだから、意図的な粉飾もヒューマンエラーも含めて決算書を鵜呑みにできない、ということですかね」
「でも、例えば上場企業でも、そういったことはあるんでしょうかね」
「中小企業より体制はしっかりしているでしょうが、経理や監査の人員がどの会社もバッチリ・・・という会社ばかりでもないので、大きなミスや意図的に行われた不適切な会計処理が後からわかることはありますよ」
「大企業は利害関係者が多いから、そんなことがあると大変そうですね・・・」
「そういう場合は、適時開示制度で『開示すべき重要な不備』として報告することになっています」
「適時開示・・・確か、有価証券報告書とは別に適時、会社から公表されるやつですよね」
「そうです。有価証券報告書や届出書、四半期報告書などは法定開示制度と呼ばれる一方で、タイムリーな重要情報は適時開示制度の要請によるものです」
「適時開示が求められる情報は、ほかにどんなものがありましたっけ?」
「前にお話した資本金の減少や定款の変更とか、新たな事業の開始とか、業績予想の修正とか・・・それこそいろいろありますよ。いずれも与信判断に大なり小なり影響する情報でしょうが、ネガティブ情報として注目を集めるのは、やっぱり『開示すべき重要な不備』でしょうね」
「過去の会計処理にミスがありました、というのが大半なんですか?」
「会計処理などの誤りもありますが、意図的に行われた売上の架空計上や、原価を先送りすることで経費を過少計上した、といったものもありますよ。28年3月期のもので20件を少し超える程度だったはずですが、専門的な人材が不足しているため、といった理由を挙げているものもありましたね」
「なるほど。我々も“人のフリ見て我がフリ直せ”というやつで、失敗から学ばないといけませんね」
「そうですね。失敗事例はキッチリ共有し、同じ轍は踏まないよう頑張っていきましょう」
話がひと呼吸したところで、他に客がおらず退屈そうだった屋台の店主が2人に声をかけた。
「お客さん、そろそろラーメンの注文をするには適時なんじゃないかと思うがね」
2人が揃って(失敗した!)という顔でラーメンを注文すると、店主は長い長い失敗談を聞いていたのか、2人を励ますようにワンカップを1杯ずつサービスしてくれたのであった。

決算書の作成ミス

経理の現場では会計ソフトの導入により、決算書の作成過程においてある程度のエラーチェックが機能するようになりました。しかし、木下のエピソードのように、仕訳を打ち込む段階でのヒューマンエラーはなくなりません。また、経理処理から決算書作成・税務申告までを税理士に依頼している会社もあれば、少ない経理担当者で日々処理し、できあがった決算書と会計データのチェックのみを短期間で税理士が担う、といったケースもあります。意図的ではない会計処理のミスを、外部の目が発見するのは困難ですが、過去の決算書の修正再表示がされた場合は、過年度の期間に関する累積的影響額を期首残高に反映させる会計ルールとなっていますので、継続的に決算書をチェックすることで、ミスの修正を事後的に把握できることがあります。

適時開示制度による『開示すべき重要な不備』

上場企業においては、投資判断に重要な影響を与える業務・運営又は業績等に関する情報は適時開示が求められています。主に決定または発生した事実、決算情報、業績・配当予想の修正、子会社等の情報が適時開示されます。その中でも『開示すべき重要な不備』は注目度が高い内容で、会計処理等の誤りや処理の遅れのほか、不適切な会計処理や架空取引のうち財務報告に与える重要性が高いものが含まれます。これらが発生する要因として、人材不足といった運用上の不備やコンプライアンス意識の欠如、内部統制の機能不全等が挙げられます。これら『開示すべき重要な不備』をはじめとする適時開示情報は日本取引所が運営する「適時開示情報閲覧サービス」から検索・閲覧することができます。

◆関連コラム

決算書はどう作られる?|財務会計のイロハのイ
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