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2020.02.20

[企業審査人シリーズvol.204]


その日の夕方、ウッドワーク社の応接室では審査課の中谷と青山が調査会社の横田を迎えていた。不定期に課長の中谷と情報交換をしている横田だが、今年最初の訪問ということで、今日は青山も同席している。
「今年は東京オリンピックが予定されているけど、その後の景気を懸念する声も多いわね」
「そうですね、東京ではここ数年、オリンピック施設やそのためのインフラ整備、インバウンド需要をにらんだホテル建設、再開発など、とくに建設業界は活況でしたからね。ただ、都心のインフラ投資や再開発はオリンピック後も続きますし、関西では万博もあります。景気が冷え込まないことを願うばかりです」
「うちも例のシェアハウス業者の融資問題で不動産向けの融資が絞られて、住宅関係は多少影響がありましたが、商業系の増収でカバーした感じでしたね。友人がいる建機会社は中国の景気減速でかなり売上が落ちていると聞きましたし、ホントに景気はまだら模様ですね」
「ところで去年は後半から粉飾決算が絡んだ倒産が多かったような気がするけど、横田さんの会社も大変だったんじゃないの?うちは実害がなかったけど・・・」
「横田さんはプロですから、ちゃんと見抜いてくれるんじゃないですか?」
「青山君、ありがとう。でも実際は見極めが困難なケースもあってね・・・。それを見抜くことを期待されている僕らとしては、心苦しい場面もあったよ」
「急に粉飾を始めたようなところは、経年比較で何か歪なところが見つかるかもしれないけど、前々からやっているようなところだと、私だって見抜く自信はないわね」
「そうですね。リーマンショックの後に粉飾に手を染めてからずっと、というところが結構ありますね。中にはバブル崩壊から、なんて会社もあるようです。そうなってくると本人たちも何が真なのかがわからないですよね」
「決算書については僕もだいぶ勉強しましたけど、決算を粉飾されちゃうと前提がなくなっちゃいますよ」
「そういう中でも、粉飾をしている会社に何か共通点はないのかしら」
中谷の質問に、横田は腕組みをしてうーんと唸ってみせた。
「最近の事例を見ても、基本的な手口は昔とさして変わっていないと思います。売上を水増ししたり利益を捻出したりするのに売上債権や棚卸資産を増やすので、そうしたケースではそれらが異常値となったり、フリーキャッシュフローが連続してマイナスになったりして、これらは通常の危ない会社と同様に検出が可能です。ただ最近は二重帳簿を作るといった手の込んだケースもあって、そうなってくると通常の財務分析から見抜くのはとても難しいです。実際の売上高が数分の一しかなかった、なんていう大胆なケースもありました」
今度は課長の中谷が腕組みをしてウーンと唸っている。思わず青山も腕組みをして難しい顔をして見せた。
「ただ、決算書に表れないところでは、そうした企業にいくつか共通点があるように思います」
「さすが横田さん、ただ唸っているだけじゃないわね。そのあたりを教えてちょうだい」
「まあ、この手のことに決定打はないので参考になるかわかりませんが、ひとつは過去に極度の経営不振を経験している会社だということですね。さきほどもあったように、リーマンショック後といった不況期から粉飾を始めた会社が一定数あるようです。もちろん、まっとうに再建した会社も多いのですが、粉飾でごまかして何とか金融機関の融資をつないでもらって乗り切ったという会社もあるので、当時と何が変わったのか、つまりビジネスモデルの変革があったのか、大胆なコスト改革を行ったのか、といったあたりを見ておく必要があります」
「リーマンショックの後って、経営が厳しい会社が多かったでしょうから、絞るのは難しくないですか?」
 青山が正直な感想を言ったが、課長の中谷は思い当たることがあるのか、うなずいて聞いている。
「もうひとつは、やはり銀行借入が多いということです。粉飾の大きな動機は金融機関の評価を得ることにあるわけなので、借入が多い会社は他にプラス要素があっても、リスクとして認識しておく必要があるでしょう」
「借入金自体を粉飾している会社もあると聞くけど・・・」
「ありますね。そういう会社は銀行別借入内訳も細工しています。ただ、そういう会社は資金調達先を増やす傾向があるので、多行取引という形で表れることがありますから、これも注意すべきポイントと言えます。5行から借りていると聞いていたのに、倒産後の債権者名簿を見たら10行あった、といったこともありましたが」
「なるほど、そうなると多少絞れてきますね」と、青山が少し安心したような声を出した。
「あとは多店舗展開や異業種への進出など、調子の良い時期に積極策をとった会社で、その後ひそかにスクラップしたり撤退したりしている会社ですかね。事業を多角化して売上は増えたけど、利益が増えない会社というのは、不採算の店舗や事業から撤退しても借金だけが残ります」
「なるほど。それも粉飾に関係なく気をつけたいポイントだけど、やはり重要よね」
「経営者に権限が集中しすぎている、というのもあるかもしれません。不正はフラットな組織であれば、どこからか外に漏れていくものです。経営者自らが関与して他の人が知らなかったとか、あるいは経営者の権限が強すぎてそのプレッシャーで幹部が不正に走ったとか、権限集中は何かとリスクが大きいと言えそうです。また、社員の入れ替わりが激しかったり、経理責任者が辞めたという情報もシグナルとして捉えたいところです」
「そういう情報はやっぱり決算書の分析だけじゃなくて、その会社の体質や動向をよく観察しておかないとわからないことよね。粉飾決算は、決算書だけの机上の分析の限界を示しているとも言えるわね」
「そうとも言えますね。なので、必ず現地に赴く私たちも一層現地での観察眼を磨かないといけません」
「目に見える数字はわかりやすいけど、ごまかすことも簡単だってことよね」と、中谷がうなずいた。
「粉飾決算を見抜くAIを開発する、といった議論もありますが、僕としては相手をよく見て真実を見定めたいですね。もちろんAIがサジェストをくれると助かりますが、相手に直接触れないと問題は解決しませんから」
「青山も、決算書の勉強は大切だけど、たまには営業担当と同行して現場を見なきゃだめってことよ」
「横田さんと同席すると、最後は必ず僕に何か課題が出されているような気がしますが・・・。リーダーへの権限集中は何かとリスクが大きいと、さきほど横田さんがおっしゃっていたような・・・」
「青山がそんなことを私に言うんだから、審査課はとてもフラットな組織よね、横田さん」
中谷と横田が笑い、青山が苦笑いをする、いつもの感じで今年最初の横田との面談が終わったのだった。

粉飾決算

昨年以降、長年にわたる粉飾決算が露見し、その前後に倒産する会社が目立っています。こうした会社は年商が数十億円以上で事業の全容を把握しにくく、かつ外部から企業の動きと決算書の動きを紐付けにくいといえます。過去に経営不振を経験している、事業の拡大に積極的で銀行借入が多い(かつ他行取引)といった点も共通点として挙げられます。粉飾を見破るには「決算書内の不整合」と「実態との不整合」の両面でのチェックが必要ですが、前者にも限界はあります。決算書の異常に気付くことは変わらず重要ですが、審査者には「決算書以外でその会社に太鼓判を押せる根拠は何か?」という難問も投げかけられています。

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