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2020.05.13

[企業審査人シリーズvol.213]

しばらく在宅勤務が続いていた木下だったが、その金曜日は輪番出社の日だった。慎重・丁寧な木下は、どうしても出社しないと処理できない仕事をリスト化するという準備をしっかりやって出社したが、出社してみると問い合わせの電話はほとんどなく、午前中にリストに書き出した業務を片付けた。
今日は同じフロアの審査課では青山が出社している。在宅勤務がベースになると出社日はその日にやるべきことをやろうとして、気ぜわしくなる。木下は出社時に先に青山が出社しているのに気づいていたが、そうした気遣いから声をかけるのを遠慮していた。
そして昼休み、リフレッシュコーナーでいつものように紅茶の茶葉をティーポットに入れるところで、コンビニの袋を持った青山が通りかかった。
「青山さん、久しぶりじゃないですか。今日は当番なんですね」
「木下さん、珍しく一緒になりましたね!気づいていたんですけど、午前中はバタバタして挨拶できませんでした。午前中で急ぎの用事は片付けられたので、一安心です」
「それはよかった。出社したときに片付けたい仕事がありますからね」
「木下さん、ちょうどよかったです。少し考えていたことがあるんで、聞いてもらっていいですか?」
「ええ、私も今日はお弁当を持ってきたので、食べながら聞きましょう」
そう言いながらふたりはリフレッシュコーナーのテーブルに向かった。
「おっと、いつもは正面に座りますが、この時期は間隔をとらないといけませんね」
そう言った青山は、手前の角に座ろうとした木下の対角線にある席に座った。
「ソーシャル・ディスタンシングですね。席を離すことで会話の声が大きくなりますが、まあ僕らしかいないので問題ないですね。」
「早速ですが、考えていたことというのは、新型コロナの影響を受けた後の与信です。特需が発生している業種もあるようですが、多くの企業は悪い影響を受けていますよね」
「これまでの基準で審査をしていたら、取引できない先ばかりが増えてしまうかもしれませんね」
「そこなんですよ。先日も先輩の水田さんとそういう話をしたんですが、財務面で具体的にどういう影響が出てくるのかを、木下さんに確認しておこうと思っていまして」
「企業によって影響はさまざまですから、一律に考えるのは難しいですね。緊急事態宣言により休業を余儀なくされている会社は、まず減収による採算悪化が想定されますね。家賃などの固定費がどうしても出て行ってしまいますから…」
「そうですね。審査の観点では、事業再開まで持ちこたえる体力があるか、事業再開後にリカバリーできるものなのかといったところを見て行きたいと思っています」
「まず具体的にどのような影響を受けているのかを把握するのが第一でしょう。ところで青山さん、食べながらでいいですか?上司がいないとはいえ、定時には席に戻りたいので」
「木下さん、失礼しました。久しぶりにお話しできるのがうれしくて、ついつい…」
木下は野菜系のサンドウィッチ、青山は揚げ物系が入ったおにぎりと、趣向は相変わらずである。
「損益面について、この時期に想定される特有の会計事象はないですか?」
「先日、八木田さんのチームにオンライン・レクチャーをしたのですが、そのときにテーマとして話をした雇用調整助成金などは、特別利益や営業外収益に計上されてくると思います。ただ、これらは休業後の支給となるので、決算期をまたいで計上される可能性もあります。要注意ですね」
「なるほど。特別損失も何か出てきそうな気がしますが…」
「たとえば、破棄せざるを得なかった在庫の処分損、さらに保有株式の評価損なども想定されます。比較的規模が大きな会社では保有資産の減損損失が計上されるかもしれません。そもそも、会計上発生する見積もりが正確にできずに、決算書の作成自体が後ろ倒しになるケースも出てくるでしょう」
「決算が遅れると定期的な与信更新にも影響が出ますね。繁忙期がずれそうですね」
リフレッシュコーナーは普段は10名前後が昼食をとっているが、在宅勤務で出社社員が限られる中、今日は2人だけである。人が少ないせいか、少々肌寒い。青山はコーナーにある自販機でホットの缶コーヒーを購入し、木下は紅茶を入れなおした。
「先日、先輩の水田さんが自己資本比率で企業体力を見る重要性が高まる、と話していましたが、今回のコロナの影響で自己資本比率が低下するどころか、債務超過に陥る会社もありそうです…」
「青山さんなら知っているでしょうが、昨年度の自己資本比率の平均は全業種で約28%だったと記憶しています。リーマンショック後の2010年あたりの平均は約21%、東日本大震災後の2012年は約19%でした。単純比較はできませんが参考値として頭に入れておくとよいでしょう」
「自己資本比率も景気によって動いているということですね。損失による内部留保の毀損と平行して、資金手当のために借入れが増えると、有利子負債月商倍率の増加も考えられますね」
「緊急手当として追加の融資を受けてカバーする企業も少なくないでしょう。なお、有利子負債月商倍率をチェックする際はこの時期、ことさら注意が必要なことがありますよ。分母となる月商も小さくなるので、借入金額の増加に加えて計算上かなり重く算出されることが想定されます」
「確かに、平均月商が平時の状態ではないとすると、有利子負債月商倍率があまり意味をなさなくなりますね。借入額自体を意識しながら、増加した程度や今後の返済能力を見極めていかなければなりませんね」
「借入金のうち据置期間が設けられているものがあるのか、その据置期間は何年か、他に担保余力にも気を配りたいですね。担保と言えば資産も気になるところです。流動資産においては、手元の現預金残はもちろんですが、買掛金の支払いを待ってもらったり、逆に売掛金の回収が遅れていたりして、必要運転資金が平時より重くなっているかもしれません」
「なるほど。必要運転資金といえば在庫も絡んできますね。やはり実態観察が大事になるな」
「ところで青山さん、また3kgばかり体重が増えたんじゃないですか?」
「ああ、やっぱりわかりましたか。木下さんに会ったら言われるんじゃないかと思っていました」
「不測の事態とはいえ、青山さんが身を以て内部留保を貯めなくてもいいと思いますよ」
「そうなんですよね。もうちょっと回転率を上げて効率的な体質にします」
「さすが青山さん、言うことが会計マニアらしくなってきましたね!」
いつものように談笑した2人は次の瞬間、慌ててマスクに手をやった。油断大敵なのである。

算出された分析指標の背景を探る

会社経営では上り坂、下り坂に加えて「まさか」という、想定し得ないような状況に遭遇することがあります。新型コロナウイルス感染症の影響も極めて甚大で、出勤の自粛も相まって、企業の決算集計や監査を従来のスケジュールで実施することが難しいケースもあるでしょう。3月決算企業の有価証券報告書の提出期限が9月末まで延長されたほか、国税においても期限までの法人税等の申告が難しい場合、個別延長の申請が認められるようになりました。このように、非常時においては企業の状態を審査するための定量情報がしかるべき時期に揃わない、あるいは揃ったとしても平時と同じような分析では実態を見誤ることが生じます。従来の判断基準に縛られず、算出された分析指標の背景を探る必要があります。さらに今後の方針や対策といった定性的な情報から、ポジティブに評価できるポイントを整理できると良いでしょう。

新型コロナウイルス関連支援情報

新型コロナウイルス感染症に関連する融資や補助金、協力金などの支援制度に関する情報を都道府県別にまとめました。
https://www.tdb.co.jp/corp/corp09_covidrelatedinfo.html

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