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  • 新型コロナ禍と財務諸表への影響 その2

2020.10.21

[企業審査人シリーズvol.225]


金曜日の昼休み、審査課の青山と経理課の木下はお弁当を持ち寄って、審査課と経理課のフロアにあるリフレッシュコーナーで落ち合った。「コロナに負けない職場づくり」を掲げ、テレワークで可能な業務を増やしてきたウッドワーク社の出社率は7割ほどを維持している。部署や職種にもよるが、審査課や経理課は出社率6割、1週間で平均3日の出社ペースをキープしている。
「お疲れ様です、木下さん。今日の経理課はことさら人が少ないように見えますが・・・」
青山は大盛りの焼き肉弁当にカップ麺と、いつものパワーランチ・メニューだ。
「そうなんですよ。ちょうど決算が一段落して、イベント通過ということで、ここで有休を取る人が多いんです。繁閑がはっきりしている職場なので、休めるときに休むことも重要なのですよ」
そう答えた木下は、春雨サラダにおにぎり2つである。おにぎり2つが多いか・少ないかの判断は難しいが、青山のメニューと並べると、そのヘルシーさがより引き立っている。
「そういう木下さんは、僕が出社した日にはいつもいますけど、ちゃんと有休とれているんですか?」
「それは決算業務が立て込んでいたからで、それが終わった後は休む予定をしていた他のみなさんに譲ったのです。今年の10月は祝日がありませんから、下旬に休みをもらおうと思っていますよ」
「なるほど。そういう僕もとくに予定がないので、あまりまとまった休みをとっていませんが・・・しかし、なんだか今年は時間の感覚がいつもと違っていて、あっという間に月日が過ぎていく気がします。そういえば、5月頃にコロナの影響で企業決算はどうなるんだろうっていう話をしましたね。あの頃は税務申告の期限延長が認められたり、上場企業の有報の提出期限が延長されたり、バタバタしていましたね。職場もいきなりリモートワークが始まって、バタバタしていましたが」
「だいぶ昔のことのように感じますね。でも、ふたを開けてみると、3月決算の上場企業の多くが有報提出を6月下旬にきっちり合わせたようです。そこに、日本人の生真面目さが出ているような気がします」
「コロナの影響が顕著に出てくるのが次の決算というのは百も承知ですが、今回の3月決算では木下さん的に何か特徴的な動きはありましたか?与信審査では斑模様な印象でしたが・・・」
「ちょうど今日、その話をしようと思っていたんですよ。きっと青山さんのヒントになるかと思って、第一四半期のものも含め、個人的にいろんな決算書を見てきましたから」
「おお!さすが木下さん、僕のためにありがとうございます!やはり気になることがありましたか?」
「まず、これまでになかったような特別損失の計上が散見されました。ただ、どの企業も初めて直面する事態ですので、計上される科目の名称がバラバラでしたけど」
「いろんな特別損失・・・具体的にどのような科目がありましたか?」
付け合わせの味噌汁であるかのようにカップ麺をたいらげた青山が、メインディッシュである大盛り焼き肉弁当のふたを開けながら聞いた。木下は2つめのおにぎりを開け始めたが、コンビニのおにぎりをこれだけ優雅に開けて口にする人も稀である。こういう人が増えると、おにぎりと紅茶のセットが売れるかもしれない。
「多かったのは、『新型コロナウイルス感染症による損失』とか、『新型コロナ関連損失』といった科目名で計上されているパターンですね。コロナという名称を使わず、『感染症関連損失』や『感染症対策費』という科目名にしているものもありました」2つ目のおにぎりを食べつつ木下が答える。
「なるほど、しかしその科目名では、具体的な内容を把握するのがなかなか難しそうですね。ふだん審査している中小企業の決算書ではあまり見かけませんでしたが、実際に遭遇すると中身が気になりそうです」
「特別損失に計上される科目というのは、一歩踏み込んで定性情報を収集しなければ実態の把握が難しいケースが多かったと言えます。代表的な『災害損失』や『事故対応損失』という科目も、それだけでは何が起こったのかわかりませんからね。より具体的な内容がわかる科目としては、『臨時休業による損失』や『操業停止に伴う損失』といった科目がありました。コロナの影響で業務を停止しなくてはならない業種も多かったですからね。とある大手ゲーム会社では『イベント中止関連損失』を計上していましたし、別の映画会社では『公演中止損失』というのがありました。これらは、新型コロナ対策として予定していたイベントの中止や延期に伴って発生した費用を計上したものだと、すぐにわかりますね」
「そうか。イベントを中止しても、家賃や予約していた会場の費用、キャンセル料といったものが発生してしまいますからね。普段はそんなに発生しない、まさに特別な損失ですね」
「その通りです。これらは金額的な影響が小さく、営業外費用に計上されるケースもあります。科目名だけで内容がわからない珍しい科目については、決算書の本表外の注記に補足説明が書かれていることもありますので、そちらにも注目すると良いですね」
「一方で、特別損失の計上理由が新型コロナの影響によるものか、判断が難しいものもありそうですね」
「その通り。『減損損失』などは、とくにその背景を探る必要があるでしょう。コロナ前から注目すべき科目ですが、新型コロナの影響で市場の萎縮が予見されたり、将来の生産計画を見直したりすることも増えていますが、どさくさに紛れて・・・といったこともありそうです」
「『減損損失』は巨額になるといやですよね。今、ことさら注意したいポイントのようなものはありますか?」
「巨額の減損損失はよくニュースになりますよね。『減損損失』は、平たく言えば評価損です。ただちにキャッシュが流出しているわけではありませんので、間接法によるキャッシュフロー計算書の営業CFでは足し戻される表記になります。新型コロナ関連の損失も、非資金性費用が含まれていないかの見極めが大切です」
「確かにこの時期、手元資金の動きは重要ですから、過去からのキャッシュフローの状況や、借入金のバランス、手元現預金の大小といった基本的なポイントはしっかり確認すべきですね」
「さすが審査課の期待の星!ただ、直近の決算書はどうしても悪いところばかりに目が行ってしまいますが、前に水田さんが言っていたように、その会社の頑張っているところもできるだけ見てほしいです」
「木下さん、経済担当大臣みたいなことを云いますね。しかし、そこは安心してください、下町育ち、義理人情の厚さは、この青山の根底に流れています。師匠の水田さんも藤田まことに似ていますし」
「そうでしょうね。しかし、青山さんの場合は人情の厚さよりも脂肪の厚さが気になりますよ」
「ああ、その話も今年何回目でしょうか・・・刺さりましたので、コロナ対策並みに注力します!」

新型コロナウイルスの影響による業績下方修正

3月期の有報提出が本格化する前のコラムでは新型コロナウイルスが財務諸表に及ぼす影響として、想定される事象を取り上げましたが、今回はそれらが実際に表れたものとして特別損失に着目しました。新型コロナウイルスは何より企業の売上に及ぼす影響が大きく、TDBの調査では上場企業の売上高の下方修正額合計が10兆円を超えています(2020年9月30日時点)。未だ予断を許さない状況が続いていますが、定量面のみにとらわれすぎず、各企業の対策や今後の方針に着目して、「コロナに負けない企業」を支えていきたいものです。

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