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  • 一人当たり分析指標 ~木下と八木田の秋の朝さんぽ~

2020.11.11

[企業審査人シリーズvol.226]


朝夕冷え込む日が徐々に増え、冬の足音が聞こえ始めた11月のある朝、経理課の木下は、日課としている出社前の会社近くの公園散歩をしていた。その日もいつものように歩道に沿った小道を右回りに歩いていると、向こうからトレンチコートを羽織った、見慣れたシルエットが近づいてきた。営業課のベテラン、八木田だ。向こうも木下に気づいたようで、いつものアルカイック・スマイルを浮かべて近づいてきた。
「グッドモーニン!ミスター木下。なんとなく、ここをウォーキングしていたらミスターに会えるような気がしていたんですよ。実にジャストなタイミングです」
「おはようございます、八木田さん。谷田さんや、石崎さんから活躍ぶりをきいていますよ」
「新しい生活様式、つまりニュー・ノーマルな状況になりましたが、二人とも自分自身のアドバンテージを活かして頑張ってくれています。私もチャレンジングな日々を送っていますよ」
「リモート営業でも、案件を着実に獲得しているようですね。八木田さんのサポートがあってのことでしょう」
「彼らは飲み込みがスピーディーですし、お得意先もオンライン対応に抵抗がなくなってきたのも一因でしょう。また、大口のケースでは審査課もプランニングからサポートに入ってくれるおかげで、スムーズに商談が進むようになりました。わずらわしい申請書類のペーパーレス化もグッドですね」
「それは良い流れですね。最近はあまり相談をいただいていませんが、順調に進んでいるのでしょうね」
「いや、それはどうかな・・・。昨今のシチュエーションが企業財務にネガティブなエフェクトを及ぼしていることもあり、木下さんにいろいろティーチングしてもらった財務分析のナレッジをそのままアジャストすることに少々リスクを感じます」
「確かに売上げが大きく落ち込んだり、それで緊急支援を受けて借入が増えたり、はたまた減損などの特別損失が計上されるケースも増えて、財務分析値も大きく変動しますからね」
「イエース、ザッツ・ライト!企業の良否のジャッジは確かに数字以外のエビデンスや、我々営業パーソンのフィーリングが欠かせませんが、やはり決算数値のエビデンスは重要ですからね。その数字のバリアブルが大きいと、直近の決算をどこまで信用していいのか・・・」
「私も前職で担当企業を持つようになったとき、社長と同じ目線で数字をしっかり追えているか悩んだものです。とくに当時はリーマンショック直後でしたので、『こんな若造に相談できるか』と、社長の中には自分が抱えている課題を話してくれない方もいました」
「なるほど。ミスター木下もストラグルしていたのですね。どんなストラテジーでアプローチしたんですか?」
「私の場合は経理面の担当としての立場だったので、月次で数字を追うことを意識しました。決算数字という1年のデータだけだと、やはり難しいと思います」
「ビッグカンパニーでは半期はもちろん、四半期決算を組んでいるケースもありますから、そうした数字をもらえることもあります。ただ月次のペーパーは、よほど信頼してくれるところでないと、ハードルが高いですねえ」
「やはりそうですか・・・。実態をより正確に把握したい場合、何らかの切り口で決算書を分解する方法が王道です。これという正解があるわけではありませんが、もし月次推移の把握が難しければ、セグメント別に探ってみるとか、従業員一人当たりに換算する分析方法もありますよ」
「ワンバイワン!それはあまりなじみのないメソッドですね」
(ワンバイワン?ひとりずつ・・・ああ、ひとりあたり、か)
 木下は次から次へと出てくる横文字を翻訳(意訳)しながら、説明を始めた。
「一人当たり売上高や売上総利益、販管費、営業利益の分析はわかりやすいですよね。上場企業では平均給与が有報に記載されますので、学生が就職先を選ぶときに参考にするケースもあるそうです」
「一人当たりに換算すると、確かに目線が等身大になって、数字がリアルに感じられますね。でも、財務分析のシーンではあまり見かけないメソッドのような気がしますが・・・」
「そうですね。これらはどちらかというと、管理会計の領域に近いものです。ただ、昨今は正社員とは異なる雇用形態も一般的になって、会社によって状況が様々ですから、正確な分析をするためには、分母となる社員数のカウント方法をしっかり考えなければいけません」
「Hmm・・・。正社員であっても、コロナ対応で時短勤務にシフトしている得意先もありますし、会社を倒産させるわけにいかずレイオフしている深刻なケースもありますから、それはノット・イージーですな」
「ちょっとややこしいことを言ってしまいましたね。ただ、世界各国でGDPを測る際に一人当たり換算が用いられているように、考え方の根本はわかりやすいものです。生産性の分析にはよく使われますね」
「確かにポピュラー&シンプルです。でも、見方によってグッドかバッドか変わってきますよね?」
「そうです。平均給与がライバル会社よりも高かったら、費用負担が重いと見ることができますし、逆に社員を大切に思って投資していると見ることもできます。労働装備率にもいろんな考え方がありますから」
「労働装備率?ワードだけは聞いたことがありますが、それも一人当たりの分析指標なのですか?」
「従業員一人当たりの設備投資額で、有形固定資産額を従業員数で割って求めます。一般的に、この金額が大きければ設備投資が進んでいると判断できます」
「なるほど!ビジネスモデルによっては少額のインベストで効率的なマネジメントができていると言えますね」
「そういうことです。労働装備率の一人当たりの対象が有形固定資産であるように、対象をPL科目に限定することもありません。しっかりと分母の従業員数を把握できれば、いろいろな見方ができます」
「売上高と従業員数くらいなら月次ベースで聞き取れることもあるので、ワンバイワンができそうだな。いずれにせよ数値が大きく動くときに、ワンバイワンで見ると実勢をキャッチしやすくなるということですな。サンキュー、ミスター。良いネタをもらったので、営業の若手とディスカッションをセットします、シー・ユー!」
八木田は、片手を上げながらトレンチコートの裾を翻して会社に向かった。木下の方は朝から英会話教室に通ったような、おかしな充実感でその日をスタートしたのだった。

一人当たり分析指標の活用と注意点

従業員一人当たりに各財務数値を換算する方法は、社内のマネジメントの一環で従業員一人一人が経営に参画している意識付けのため、KPIとして採用しているケースが身近です。また、ライバル企業同士の財務分析の際、通常の財務分析と合わせて用いられることもありますが、木下が話したようにこの指標は、分母となる従業員数の把握・定義が重要です。正社員数名で、多くがパート・アルバイトで多店舗を経営しているケースなどにおいては、非正規のメンバーを条件に応じて換算して含めるなど考慮した方が良いでしょう。財務分析に絶対の正解はありませんので、定型的な分析にとどまらず、目的に応じアイデアを練ってみましょう。
 なお、TDBでは毎年11月末に発刊している全国財務企業分析統計にて、業種別、規模別かつ黒字企業・全企業毎に、一人当たり売上高、同販売管理費、同経常利益、労働装備率を算出しています。

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