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  • 新しい概念、収益認識基準とは? ~基本の5ステップを確認しよう~

2021.02.09

[企業審査人シリーズvol.232]

その日、東京の気温は冷え込んで、昼過ぎから降り始めた雨が夕方には雪に変わりはじめていた。年始から再発出された緊急事態宣言により、ウッドワーク社ではさらに出社率を落とし、本社の各フロアとも人はまばらだ。出社して月末の締め作業を行っていた経理課の木下がふと顔を上げると、フロアの入り口に雪の中を出社してきた審査課の青山が立っていた。
「あれ、青山さん。今日は在宅勤務じゃなかったんですか?」
「お疲れ様です。そうだったんですけど、来週の在宅勤務で対応する仕事の資料を持って帰り忘れちゃって、中谷課長に許可をもらって、ちょっとだけ来ました。雪が降ってきて、まいりましたよ。自業自得なんですけど、ここまで来るだけで体力を使い果たしました・・・」
「私は在宅勤務中、眠くなったり集中力が途切れたりするたびにスクワット、腕立て伏せ、腹筋ローラーで筋トレをしているので、むしろ体力が増強されてきましたよ。せっかくですし、青山さんも新しい習慣を作っては?」
「それは凄いですね!新しい習慣かあ、緊急事態宣言が解除されたらジムに通おうかな・・・。そうだ、新しい習慣で思い出しましたが、新聞に『収益認識基準』の適用がスタートするという記事が載っていましたよ。何だか難しそうな印象を持ちましたが・・・」
青山は目的地の自席に辿り着く前に、長くなりそうな話を始めた。もとよりフロアは閑散としており、人目を気にする必要もない。木下も立ち上がってカウンターを挟んで話を始めた。
「そうですね。これまで簿記や会計を勉強してきた人であっても、耳慣れない用語が多く、難解だと言われています。これまで日本では実現主義によるルールが、ずっと適用されてきましたからね」
「実現主義の実現というのは、商品の引き渡しなどに対応して、営業債権が確定したときでしたよね。それで、何か問題でもあったのでしょうか?」
「例えば、売上計上のタイミングは実現主義に照らすと、出荷基準、納品基準、検品基準のいずれも採用OKとなります。取引毎にバラバラに適用できるわけではないのですが、続けて統一したルールを採用するのであれば、会社の事情に合わせて選択できます。ただ昨今は、商取引が複雑になり、かつグローバル企業が増えてきたので、企業間比較の観点からも売上に関する会計ルールを国際標準にする気運がいよいよ高まってきました。売上に関する会計ルールは一番重要なところですからね」
「なるほど、今、我々は大きな歴史の転換点に立っているわけですね?」
「私もまだ勉強中ですが、せっかくですし、この基準の基本的な考え方である、5ステップによる収益認識について説明しておきましょうか」
青山のやや大げさな反応に、木下のレクチャー・スイッチが入った。
2人はリフレッシュルームに移動したが、電気を付けても外は薄暗い。雪の降り方が激しくなっているようだ。
「ぎょっ!これはもしかしたら積もるかもしれませんね」と、青山が窓の外を見ながらつぶやいた。
「確かに今日は朝から冷え込んでいましたからね。あまり長くならないようにしましょう」
そう言った木下は左手に収益認識の解説書らしきものを手にしている。
「新しい収益認識基準では、『なにを・いくらで・いつ』収益として認識するかを、5つのステップで判定します。まずステップ1は、『契約の識別』です。おおざっぱに言えば、書面や口頭により契約を承認して、それぞれ義務を果たすことを約束しているかなど、契約識別の要件を満たしているかをチェックします」
「なるほど。そもそもお客さんとの契約によって生じた取引による収益なのか、というところの確認ですね」
「その通りです。収益認識基準が適用される契約と判断できたら、次はステップ2の『履行義務の識別』です。ちょっと慣れない言い回しですが、移転を約束した財またはサービスを履行義務として区分し、識別するフェーズです。例えば、ひとつの契約に商品販売とサービスが含まれていたら、それぞれを切り分けます」
「単純なモノの販売に保守やオプションなんてものが付いていることがありますからね」
「次のステップ3は『取引価格の算定』です。対象となる契約の取引価格の総額を把握することになりますが、将来の値引きや返品についても考慮する必要があります。これが難しいところで、契約書に記載されている金額をそのまま計上すれば良い、というわけではないのです。我々の業界でもリベートがありますが、他にもインセンティブや割増金、逆に減額される約束などがあればこれらも見積もって反映させなければなりません」
「その取引総額を把握できたらもう終わりで良さそうですが、まだ先のステップがあるのですね?」
「そうです。次はステップ4の『取引価格の配分』で、前のステップ3で把握したトータルの取引価格を、ステップ2で切り分けた履行義務に配分していきます」
「なるほど。どう配分するんでしょうか?」
「これまた難しい言葉ですが、独立販売価格の比率に基づいて配分します。かみ砕くと、それぞれを単独で販売した場合の価格を見積もって割合を算出し、総額を配分するというプロセスになります」
「流れはわかったような気がしますけど、実際にやるとなると骨が折れそうですね」
「個々の論点もかなり深いんですよ。こんな分厚い専門書も出ているくらいですから。でも、次のステップ5、『収益の認識』でラストです。履行義務を充足したとき、あるいは充足するにつれて、収益を認識します」
「最後の最後でタイトル回収ですね。充足するにつれ、というのはどいうことでしょうか?」
「商品の販売は引き渡しが済めばその期に収益を認識しますが、サービスが2年契約だった場合は、当期に半分を認識し、翌期にもう半分を認識することになります。つまり、実務上はステップ2とステップ5が重要だと言われているようです」と木下が話し終わると同時に、フロアにアナウンスが流れ始めた。
(大雪が予想されますので、帰宅困難が懸念される従業員は、早めの帰宅をお願いします)
「木下さん、まだ聞きたい部分がありますが今日はやめておいたほうがよさそうでね。ありがとうございました」そう話して立ち上がった青山が、足を滑らせ転びそうになったので、木下が声をかけた。
「あらあら青山さん、まずは、自分のステップに気をつけましょうね!」
「あれ、僕は今日何をしに来たんでしたっけ・・・」と言う青山に、木下も滑りそうになったのだった。

収益認識基準の適用時期・対象会社

この新しい収益認識基準は、2021年4月1日以降に開始する連結会計年度および事業年度の期首から強制適用されます。適用対象企業は、原則として上場企業や大会社等の監査対象会社です。そのため、中小企業等においては、従前の「中小企業の会計に関する指針」といった従来ルールを踏襲することも可能ですが、上場会社等の子会社・関連会社においては、実務上、親会社の連結決算書作成のために収益認識基準の適用が求められることになるでしょう。今回はその概要についてステップを追って紹介しましたが、実例やポイントについては改めて取り上げていきます。

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