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  • 休廃業の可能性を予測する ~第2回 相談できない事業承継問題~

2021.09.16

第1回では休廃業・解散の定義や年間での発生件数、その要因について紹介しつつ、企業が休廃業・解散した場合、地域経済にどのような影響があるのか説明しました。今回は事業承継の支援制度やその課題、課題解決の一助となりえる休廃業予測モデルについて解説していきます。

早期から事業承継について検討する必要がある

図1 事業承継に関する企業の意識調査(2021年5月) 帝国データバンク
弊社が2021年5月に実施した調査によると、回答企業全体の約2/3にあたる67.4%が事業承継を「経営上の問題」と認識していました(図1)。そういった問題意識は多くの企業が持っている一方で、2020年版の中小企業白書によると、経営者が60代以上の企業で「今はまだ事業承継について考えていない」と回答した企業は24.5%でした。なお、中小企業庁作成の事業承継ガイドラインによると、事業承継の準備には後継者の選定から育成まで含めて5~10年要するとされています。60歳から事業承継を考え始めた場合、最高70歳まで準備に要する可能性があります。60代で事業承継について未着手の方は一刻も早く準備を始める必要がありますし、60代未満の方もなるべく早いうちから準備することが重要です。

国主体で事業承継を支援する機関がある

図2 令和 2年度 事業引継ぎ支援に係る実績ついて 中小企業基盤整備機構
では、いざ事業承継を検討しようと思った際に、支援・サポートなど相談に乗ってくれる窓口にはどのようなものがあるのでしょうか。一例を挙げると、国が各都道府県に設置している事業承継・引継ぎ支援センターや商工会議所、金融機関、税理士や公認会計士等の専門家などがあります。中でも事業承継・引継ぎ支援センターは、第三者承継支援を行っていた「事業引継ぎ支援センター」に親族内承継支援を行っていた「事業承継ネットワーク」の機能を統合して、ワンストップで支援を行う組織として誕生しました。事業承継に関する相談や事業承継計画の策定、事業引継ぎにおける譲受/譲渡企業を見つけるためのマッチング支援などを基本的には無料(専門家派遣による支援実施の際は費用負担発生の可能性あり)で実施する機関です。当センターでの相談者数・成約件数ともに右肩上がりで、令和2年度はそれぞれ11,686人・1,379件と過去最高を記録しました(図2)。

相談出来る場所があっても活用されていない

年々事業承継・引継ぎ支援センターへの相談が増えてはいるものの、未だに相談等行わずに廃業を決めてしまう企業も多いのが現状です。2019年に日本政策金融公庫が発表した『引退廃業者の実態』調査によると、そもそも後継者を探すことなく事業をやめた先が全体の93.4%、事業譲渡を検討しなかった先が91.2%でした。また「相談しても解決するとは思えない」「相談しなくても何とかできると思った」などと考え、誰にも相談せずに廃業を決めてしまう経営者の方も多いようです。このようにせっかく相談できるような場があっても、そもそも後継者探しを行わない、相談をしない企業も多くあります。また、経営者の中には事業承継の検討を行っていることが取引先に知られるとマイナスに捉えられるのではないかと考え、わざと自身の地域外の事業承継セミナーへ足を運んだり、相談自体を躊躇してしまったりするケースもあるようです。

プッシュ型の事業承継支援

相談できない問題を解決する方法の1つとして、企業側から相談されるのを待つ受け身の姿勢ではなく、事業承継の準備を始めた方が好ましい状態にも関わらずその認識がない経営者や、相談先に困っている経営者などへ支援機関側から積極的に関与していく、プッシュ型の事業承継支援があります。ただし、数多くある企業へやみくもにプッシュしても意味がありません。そこで活用できるのが弊社の開発した、今後1年以内に休廃業・解散する確率を個社別に算出する「休廃業予測モデル」です。過去に休廃業・解散した企業にはどのような特徴があったかを調べ、帝国データバンクが保有する企業ビックデータにそれらの特徴をあてはめ、統計的な手法を用いて算出します。この活用により支援機関は、休廃業・解散の可能性が高い先から効率の良い支援を行うことができます。

取引先のリスク確認やM&A候補先選定にも活用可能

休廃業予測モデルは事業承継支援機関に限らず、一般企業でも活用できるデータであり、実際に数百の企業へ導入実績があります。例えば、自社取引先の休廃業リスクを確認することで、サプライチェーン維持を目的とした取引先の管理が可能です。また、廃業可能性が高い企業を見つけてM&Aによって業容拡大を図る、人材を確保するなどの手を打つことにも活用できます。活用事例の詳細は次回で詳しくご紹介します。

休廃業予測モデルは5つの要素から算出

図3 QPランク別休廃業実績
では休廃業予測モデルは、どのような要素から算出されているのか、5つの要素に関して簡単に解説します。

1.代表者属性
代表者の年齢や後継者有無などの代表者にかかわる情報
⇒代表者が高齢、後継者がいない企業のリスクは高い

2.企業属性
業種や企業活力などの定性情報
⇒業種によってリスクの高低がある

3.業績
売上規模や収益性
⇒売り上げが大きく減少している、収益性が悪化している企業のリスクは高い

4.取引関係
取引銀行や取引先の数
⇒取引銀行や取引先の数が多いほどリスクが低い

5.シグナル情報
弊社調査員が独自に入手した、個別企業の休廃業のシグナルとなる情報
⇒休廃業のシグナルとなる情報を入手するとリスクが高くなる


上記5つの要素を組み合わせて個社の休廃業確率を算出し、10段階の「QPランク」に格付けします。ランク1から10へ上がるにつれて、休廃業リスクが高くなります。図3はQPランク別に実際どのくらい休廃業が発生したのかを示しています。QPランク10を例にみると、2019年12月時点でQPランク10に格付された企業20,906社のうち、2020年の1年間で8.97%が実際に休廃業・解散したということになります。
このように休廃業リスクが定量的に把握できることで、事業承継支援やサプライチェーン維持など、先回りした打ち手が可能になるはずです。


次回は「第3回 休廃業予測活用事例」です。
◆休廃業の可能性を予測する バックナンバー

第1回 休廃業の現状
第2回 相談できない事業承継問題
第3回 休廃業予測活用事例

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