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  • 見落とすべからず、粉飾の王道パターン

2020.03.18

[企業審査人シリーズvol.206]


その日の外回りを終えた営業課の新人・谷田が、久しぶりに経理課の木下を訪ねてきた。仕事にも一人暮らしにも慣れてきた谷田だが、まだまだ仕事では心配事が尽きないようだ。生真面目な谷田は決算書関連で困ると、木下にアポイントのメールを送ってから訪ねる。この日もそうしたアポメールをもらっていた木下は、フロアに入ってきた谷田を見るなりリフレッシュルームを指差した。木下は(時刻は午後三時、ちょうどティー・ブレイクの時間だな)と、給湯室で2人分の紅茶を用意し、谷田の待つテーブルに向かった。
「もう谷田さんも入社して丸二年ですね。確か、来月からは後輩も来るんじゃないですか?」
「そうなんです!だから後輩に聞かれて答えられるように、改めて確認しておきたいことがありまして・・・」
「去年は登山にもつきあってもらって、かなり力を付けてきたと思いますけど、まだ不安がありますか」
そう言いながら、木下は頼られるのがうれしそうである。
「粉飾決算について、改めて整理したいんです。このところ、粉飾決算が多いなんてことをあちこちで聞くので、営業で決算書をもらう場合もちょっと不安になることがあるんです。チェックポイントみたいなものがあれば、教えていただけませんか?」
「なるほど。倒産した後に粉飾が明らかになるケースが確かに増えてきていますよね。ひとくちに粉飾と言っても、かなり範囲も広く、程度の差もありますから、簡単な話じゃありませんが・・・。谷田さんがイメージしている粉飾って、どんなものですか?」
「儲かっていない会社が赤字を黒字にみせかけて、取引継続や追加の融資を引き出すイメージです。イメージとしては仮面ライダーのショッカーのような、ブラックなイメージです」
素直で正義感の強い谷田が真顔で言うので、木下は吹き出しそうになった。
「そうですね。確かに悪い事には間違いないでしょうけど、中小企業の中には、逆に黒字を赤字にみせかけるパターンもありますよ。逆粉飾と呼ばれる手口です」
「えぇ?なぜそんなことを・・・?わざわざ儲かっていないことをアピールするのは、変じゃないですか?謙虚な会社・・・ということなのかな?」と言う谷田に、また木下が吹き出しそうになった。
「いやいや、謙虚なんかじゃなくて、これも悪い事ですよ。ズバリ、脱税のために悪く見せるパターンです。例えば、経費を多く計上して利益を少なく見せかけるために、資産に計上すべき科目を経費にしてしまう、といった処理などがあります」
「そういえば、前に修繕費か資産計上か、というお話しを伺いました。資産とすべきものを恣意的に修繕費にしたら、確かに利益を少なくできてしまいますね」
「そういうことです。ただ、こういうことを繰り返していると、結局は税務調査などでバレて、本来納付すべき金額以上を納めなければならなくなりますので、正直に申告すべきなのは言うまでもありません」
「逆粉飾か・・・そういう不誠実な会社も、悪い会社として警戒すべきですね!」
正義感の強い谷田は今にも鬼ヶ島に出征するかのような顔をしている。
「ちょっと待ってください。確かに不誠実な会社ですが、与信管理では決算の数字が悪ければ、保守的に判断するのが常です。ですから、そういう会社は警戒しなくても通常の与信管理の目線ではじくことができますよ。やはり警戒すべきは、谷田さんが最初に聞きたがってた、信用を粉飾するパターンでしょう」
「そうでした。そちらの粉飾について、見破る方法をお聞きしたかったのです!」
「粉飾のパターンについてお話しすると、一日では足りないくらいですから、今日は王道パターンに絞ってお話ししましょう。できれば、損益計算書と貸借対照表のつながり、より端的に言うと資産と収益・費用の関係性をイメージしながら聞いてください」
「つながりをイメージして・・・つまり、仕訳のイメージですか?」
「その通り、さすがです!では、まずオーソドックスな売上の架空計上から始めましょう。複式簿記の世界では単にPLの売上の数字だけを増やすことはできません。では、架空売上に対して増える科目は何でしょう?」
「現金・・・はさすがにウソつくのは苦しそうですね。そのまま、売掛金・・・ですか?」
「正解です。架空売上がどんどん増えると、ストックである貸借対照表側の売上債権が増え、回転期間は長期化して、やがて異常値になります。売掛金の異常を悟られたくないので、仮払金やその他流動資産といった、名称からは中身がはっきり分からない科目に振り替えてしまうこともあります」
「なるほど。八木田先輩がよく、多額の貸付金には気をつけろとおっしゃいますが、似たような話ですね?」
「架空資産の可能性、という意味では近いです。他の業績不振のグループ会社に貸し出しているケースでは、回収可能性という点でその資産価値が疑わしくなります。ではもう一つの王道の粉飾パターンとして、棚卸資産の架空計上をとりあげましょう。なぜ、期末の棚卸資産を増やすのでしょうか?」
「利益を増やすためには、売上を増やすか、経費を減らせば良いんですよね。それじゃあ、原価をそれでコントロールしていると思うんですけど・・・」
「いい線、行っていますよ。仕入原価を計算する際、期末の決算整理で売上に対応する部分だけを抜き出す作業が発生します。会社を始めた1年目を想定した例を挙げましょう。リンゴを3つ、各100円で仕入れたとしましょう。そのうち、2つを計240円で売った場合、利益と期末の棚卸資産はいくらになりますか?」
「それはカンタンですね。利益は40円で、期末の残りは1つだから100円ですね。期中は仕入れ300円で、期末に残った100円分引いて資産計上する・・・そうか、つながりました!」
「そういうことです。ここで、ウソをついて期末に2つのリンゴが残っていると報告すると、売上は240円に対し、仕入原価は100円、利益は140円と増えます。そして期末の棚卸高は200円となるわけです。これが棚卸資産の架空計上です。ただこれも、やりすぎると、棚卸資産回転期間の長期化が異常値として表れます」
「このケースだと、さらに粗利益も異常に高くなっちゃいそうですね。何事も悪いことは続かない、ということですね。売上債権と棚卸資産が多い場合は不良債権や不良在庫が隠れているから要注意、と覚えていましたが、粉飾を疑うべきケースもあるのですね。勉強になりました!」
「私も谷田さんの正義漢ぶりを見せられて、清々しい気持ちになりましたよ。頑張ってください」
 ショッカーを見破る術を身につけた谷田は、上着を靡かせながら颯爽と営業部に戻って行ったのであった。

見逃したくない初歩的な粉飾の手口

利益を実態よりも多く見せかける粉飾をするには、売上の水増しか、コストの隠蔽が行われます。しかし、これら小手先の粉飾は、ストックである貸借対照表の科目に異常値として露見します。売上債権回転期間や棚卸資産回転期間が異常に長い場合や、科目名だけでは中身が判断できない多額の資産科目については注意を払いましょう。仮に架空でなくても、不良在庫や不良債権が疑われます。とくに、一般的な景況に反して売上を伸ばしている会社や、増収の理由がよくわからない会社は、そこを探ってみる余地がありそうです。

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