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2020.07.21

[企業審査人シリーズvol.220]

その日の午後、ウッドワーク社の審査課の3人は小会議室にパソコンを持ち込んで、リモート会議システムがつながるのを待っていた。3人とは課長の中谷と青山、そしてベテランの水田。秋庭と千葉は本日在宅勤務である。リモート会議システムといっても無料のソフトウェアである。3人が適度に距離をとって席を確保し、青山が水田のリモートツールのログインをやってあげると、パソコンには3人の顔に続いて、調査会社の横田の顔が現れた。そう、これまで横田が来社して行っていた情報交換を、今日はリモートで行うのである。
「あっ、つながりましたね!横田さん、ありがとうございます」
リモートツールで横田を招待した青山は、画面でいつもの江戸前スマイルを見せる横田を見て安堵した。この手の操作はマニアックな秋庭にお任せなので、今日その代役を務めた青山は内心不安だったのだ。
審査課と横田の情報交換は月に1回のペースで継続的に行ってきたが、緊急事態宣言後はできなくなっていたので、今日は3月以来の開催である。事前に青山が横田にリモートでの参加を相談したところ、横田もそのツールを普段利用しているとのことで、二つ返事で了解してくれた。そのときの話では、調査員の横田も最近は調査活動においてリモートで取材を行うことがあるようだ。
「横田さんも忙しいのに、よく参加してくれたのう・・・」と、水田が画面の横田に手を振っている。
「いえいえ、こちらこそ、こういう準備をしていただいて、ありがとうございます。水田さんのご想像通り、経済活動の再開とともに、われわれの調査活動も本格的に再開しています。今はお待たせしていた調査をしゃかりきに進めているところです。調査や営業でこうしたツールを何度か使って、私もようやく慣れてきました」
「リモートで取材というのも結構難しいんじゃないの?現地で嗅覚を発揮するのが調査の仕事って、よく横田さんが言っていたから。リモートじゃそれができなくて困っているんじゃない?」と、中谷が続いた。
「中谷さん、すべてをリモートでやっているわけじゃないんですよ。感染拡大への配慮が必要なことから、電話やリモートツールでの取材に切り替えることはありますが、別のタイミングで現地は確認していますし、リモートでの実態把握が難しいと判断すれば現地で取材を行っています。調査先の意向も汲みながら、どういう場合に現地取材がマストになるか、そのあたりの判断が調査員の腕の見せ所になっています」
「横田さんの話は”腕の見せ所”が多いわね」と中谷が笑い、横田が頭を掻いた。何度も宴席も共にした間柄とはいえ、中谷の横田への突っ込みは容赦ない。青山は、宴席で楽しそうに話す独身同士の中谷と横田を見て「この2人は深い関係なのではないか」と勝手な想像をしていた頃を思い出した。しかし、その後も一緒の機会を重ね、何ら進展がなさそうな様子を見て、青山はそうした想像をゴミ箱に入れてしまった。
「ところで、実際に動かれてみて、景気はどうですか?5月の倒産件数は少なかったようですけど・・・」
青山は突然出てきた自分の邪推を改めてゴミ箱に突っ込み直しながら、話を本題に向けた。
「確かに5月単月の倒産件数は前年同月比で半分以下、2000年以降単月では最少の件数になりました。ただ、これは実態を反映しているとはいえないと思います」
「5月は緊急事態宣言などもあって、裁判所の業務も停止していたんじゃったな」
「水田さん、その通りです。なので、私たちは5月の初めから法的整理の倒産件数が減少すると予想していました。ただ、実際はそれだけなじゃくて、コロナ関連の給付金や制度融資といった施策、さらに金融機関もコロナ倒産を増やしてはいけないと対応してきた結果だと思います」
「私も金融機関の知り合いと話をしたけど、金融機関はコロナ関連の倒産を出してはいけないと、使命感とプレッシャーの両面で頑張っていたようね」と、中谷が相づちを打った。
「コロナ倒産が増えると政策への風当たりも強くなりますからね。金融円滑化法以降の金融行政のスタンスが継続されているように見えますが、何はともあれ倒産が減ったのはよかったです」
「でも、件数が少なかったわりに、上場企業の倒産とかコロナ関連倒産とか、倒産の話題が多かった気がします」
「青山さん、そうですね。コロナ倒産はニュースとして大きく扱われましたし、コロナ不況で倒産が増えるのではないか、という先取り的な特番を組んだテレビ局も多かったですからね。ただ、5月に倒産した企業は、もともと問題を抱えていたのがコロナに最後の一押しをされた、というケースが多かったように思います」
「東京オリンピックを控えてインバウンド消費を当て込んでいた企業は、外国人が国内から消えて売上がなくなってしまったんだから、ちょっと想像していなかったでしょうね」
「そうですね。企業体力があれば何とか乗り切れたのでしょうが、借金で急拡大を図っていたような会社は厳しかったと思います。東京オリンピックとインバウンド消費を期待して積極的に投資していた旅客運送業や宿泊業、飲食業は、まさしく想定外の状況によって投資で期待した売上がなくなってしまいました」
「やはり、借入依存度が高い会社はリスクが高いことが実証された、とも言えるのう」
「そうですね。経済活動が再開しても売上がすぐに戻らない業態は、これから正念場です。まだ外国人の入国制限が続いていますし、インバウンドの売上が多かった業態はしばらく体力勝負が続くでしょう」
「倒産は減っているかもしれないけど、廃業は増えていそうな気がするわね」
「おっしゃるとおりです。まだ集計が出ていませんが、飲食店は有名なお店の閉店がニュースで取り上げられていましたね。経営者が高齢の小規模店舗では、これが潮時だと廃業を決断した会社は少なくないと思います。そうした会社に商品を卸していた会社は、不良債権こそ発生しなくても、販路を失うという形でこれからダメージが顕在化するかもしれません」
「わしも緊急事態宣言で在宅勤務が増えたときは、いつまで働くかを考えずにおれんじゃった。ずっと動いてきたものが急に止まると、再び動き出すのにすごい力が必要じゃ。そのまま止める決断をする経営者が出てくるのも、気持ちはよくわかる」と、水田が目を閉じてうなずいた・・・が、数秒が経過してもそのまま動かない。
「ちょっと水田さん、大丈夫ですか?」と、青山が心配になって声をかけると、水田がはっと目を開けた。
「おっと、最近少し目を閉じると、そのまま睡魔に引き込まれるんじゃ・・・」
「ちょっと水田さん、まだまだ働いてもらわないと困りますよ!」と、中谷がエアで水田の肩を叩いた。

コロナ禍と倒産動向

TDBの倒産集計では「コロナ関連倒産」が340件を超えました。当初は「コロナ前」から直近決算が赤字、債務超過といった問題を抱えていた企業の倒産が目立っていました(コロナ関連倒産の4割が直近決算で赤字、3割が債務超過)。しかし最近は、徐々に「コロナがなければ倒産することはなかった」企業の倒産が増えており、その傾向は都市部でより顕著です。外出自粛等による売上の急激かつ大幅な減少に対し、当初は内部留保や金融支援で堪え忍んでも、経済活動再開後も売上が戻らない長期戦となると、力尽きる、もしくは事業を断念する経営者が出てくるでしょう。コロナの影響は業種ごとにある程度鮮明になりますが、こういうときこそ得意先の経営者の意向や商流を確認し、「思わぬ影響」を事前に発見することが大切になるでしょう。

新型コロナウイルス関連支援情報

新型コロナウイルス感染症に関連する融資や補助金、協力金などの支援制度に関する情報を都道府県別にまとめました。
https://www.tdb.co.jp/corp/corp09_covidrelatedinfo.html

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